ご覧いただいている皆さんは大丈夫だったでしょうか。お見舞い申し上げます。
(④から)

出町探訪を終えた私たちは、ひとまず出町柳駅から伏見方面へ移動します。
乗車するのはもちろん、京阪電車の看板、8000系です。

深々と身体を包み込んでくれる豪華なバケットシートは、「本当に特急料金いらないのか?」と良い意味で心配になる快適さです。
横で某氏が早速爆睡してますよ…w
そして、中吊り・網棚上ともに広告が一切ないのも素晴らしい。
広告は少なくない収入源であろうに完全排除するとは、徹底して落ち着いた空間を作ろうという意気込みが感じられます。
今回はとりあえず平屋車両に身を落ち着けましたが、機会があれば出町柳-淀屋橋をダブルデッカーの2階席で乗り通したいものです。
とにもかくにも、この8000系の上質な車内空間は、無料列車として右に出る者はいないと言っても過言ではないでしょう。
性格のよく似た列車としては京急2100形が思い浮かびますが、スペースの都合から乗客は座席転換できないようになっていたり、中吊りも普通についていたりして、そういう面から見ると京阪8000系に軍配が上がるかなと(それでも京急2100形に使用されるノルウェー製の座席の快適さは、間違いなく関東で突出しています)。

「たまこまーけっと」探訪の関係で中書島まで乗ってきました。

ホームを移動すると、宇治線・交野線向けとして2012年にデビューしたばかりの13000系が発車を待っていました。

ここでも桜を楽しんで、藤森まで戻ります。



琵琶湖疏水と桜並木。まさに春爛漫でござい。

藤森での目的地の一つは、「たまこまーけっと」においてたまこたちが通う学校のモデルとなった、聖母女学院藤森キャンパスです。
その本館は、元は1908年に、旧帝国陸軍第16師団の司令部庁舎として建設された、非常に歴史的価値の高い建築物です。
2012年には、京都市民推薦による「京都を彩る建物や庭園」選に選出、認定されました。
現在、この本館は現役の学校の施設として使用される一方で、一般市民も事前に申し込んだ上での見学が可能となっており、明治期の古典建築の美しさを間近で感じることができます。
見学にあたっては、こちらのリンク先に記載されている、聖母女学院法人事務局総務課の電話番号に連絡の後、書類またはメールでの手続きを要します。
見学希望日の10日前までに一通りの手続きが完了するようにとのことです。リンク先では「1週間前」と書かれていますが、現在は「10日前」です。
見学時間は30分程度で、現役の学校ということもあり(というか、一般公開の趣旨として)、一般が見学できるのは本館のみです。
なお、火・木曜ならびに聖母女学院の学校行事がある日は見学不可、また土日は外観のみの見学となります。詳細は問い合わせて確認してください。
アニメとの比較考察については、すでに聖地巡礼メモの記事に掲載していますので、あわせてご覧ください。
この記事では、聖母女学院本館の見学レポをより深く書いてみたいと思います。
繰り返しになりますが、以下、敷地内見学・撮影および写真のブログ掲載についてはあらかじめ許可をいただいています。写真にもその旨記載しています。
くれぐれも不法侵入などすることのないようお願いします。
京都市の中でも独自の文化を持つ伏見。

その北部に位置する深草・藤森一帯は、今でこそ教育機関や住宅地で占められた街になっていますが、かつてこの一帯はすべて旧帝国陸軍の敷地でした。
1908年というと、日本が日露戦争を終えた直後になりますね。
教科書の通り、日本はこの戦争に勝利しますが、終わってみれば本土から全ての師団がいなくなってしまいました。
(「師団」というのは軍の部隊の単位の一つです)
これを受け、新たに編成されたのが、第13(新潟県高田・仙台)・14(宇都宮)・15(愛知県豊橋・京都)・16(京都)師団の4つの師団でした。
第16師団の編成を受け、司令部庁舎が1908年に建てられたことは確かなのですが、誰が設計したのかは不明、図面すら残っておらず、案外謎が多いようです。
なんと、わずか8ヶ月での突貫工事だったそうですが、さすがはレンガ造り。とても突貫とは感じさせない頑丈さで、105年経った今でもどっしりと構えています。
大きな地図で見る
さて、第16師団がこの地に拠点を置いた名残は、現在でも周辺各所に見られます。


例えば地図を見ても分かるように、この辺りの主要な道路は、京阪とクロスする地点でわざわざ立体交差になっているのが印象的でした。
どうやら、やはりこれも師団の名残らしく、踏切によって訓練に支障が出ないようにと、道路を立体交差にしたようです。
第16師団は太平洋戦争においても戦線に加わりましたが、結果として日本は敗戦を迎えます。
豆電球の灯り一つ漏らせない時代。できる限り目立たないようにと、一時は庁舎全体が真っ黒に塗られていたそうです。
実はここに来るのに利用した「藤森」駅がその駅名になったのも、「目立たないように」という意味合いからなのはある意味同じで、旧称の「師団前」では格好の標的にされてしまうことから急遽改称されました。
関東でも同様に、小田急線の「相武台前」(←士官学校前)ならびにJR相模線の「相武台下」(←陸士前)、さらに京急線の汐入駅の旧称「横須賀汐留」(←横須賀軍港)の例がありますね。
終戦から3年後の1948年、かつて第16師団が拠点としていた広大な土地は、民間に払い下げられることが決まりました。
このうち、司令部庁舎の遺構部分とその周囲は、当時大阪に本部を置いていた学校法人聖母女学院によって払い下げられました。
現在に至るまで学院本館として、ほぼ全く手を加えられることなくそのまま活用されています。
これまでの歴史について解説してくださった職員さんのご案内により、私たちは敷地内を1周させていただくことに。

採光のための窓がずらりと並び、壮観です。
院名の通りカトリック系の学校なので、建物の前にはマリア様の像が。

カメラを向けてみると、レンガの積み目がよく見てとれました。

図のように、一つの段はレンガを縦向きで揃え、その上の段は横向きで揃え…という積み方を交互に重ねていく様式を「イギリス積み」と称するそうです。
もう一つの代表的な積み方としては、一つの段に縦、横、縦、横…と配置していく「フランス積み」(厳密には「フランドル積み」と訳すべきらしい)があります。
フランス積みが華麗さを重視しているとされる一方で、イギリス積みは耐震性に優れているとされ、この庁舎が建てられた明治後期ごろから徐々に主流となっていった様式だそうです。
★ ★ ★ ★ ★

※2012年9月27日撮影
そういえば東京駅(1914年建設)はどうかと思って、東京に戻った数日後に改めて見に行ってみました。

一見すると、イギリス積みでもフランス積みでもない、レンガの短いほう(小口)が露わになる積み方(「小口積み」というらしい)に見えます。
ところが、実はこれは「化粧」として、外壁を小口で揃えて処理しているだけ。
駅構内、丸の内南口改札付近に、1914年当時の内部が露わになっている部分がありました。


おお、イギリス積みだ!これはいい勉強になった。
今までレンガの積み方なんて気にしたことなかったけど、こうして見ると興味深いですね。聖母女学院さんに感謝。
★ ★ ★ ★ ★

先ほど少し触れた採光窓ですが、よく見ると、窓の上部の装飾が菊の御紋になっているんですね。
西洋建築の中にも「大日本帝国の陸軍だ!」という力強い意志が込められているように思えました。

再び本館に入り、荘厳な装飾の施された大階段を上がります。
特別に理事長室(写真奥)の中に入らせていただきました。本館の最も中枢にあり、かつて師団長室として使われた重要な部屋です。

民間に払い下げられた周辺一帯は、今やすっかり街として発展しました。
第二次世界大戦以前は、この窓からもっと遠くまで見渡せたことでしょう。

聖母女学院本館は、このような荘厳な造りから、各種撮影に何度か使用されたそうです。
最近では「たまこまーけっと」より前に、2011年公開の映画「プリンセス・トヨトミ」でも撮影協力したとか。今度観てみよ。
ただ、過去に撮影を行った団体の一部には、施設を大変乱雑に扱う者もいて、あちこちが傷んで困っていると職員さんがおっしゃっていました。
すでに建設から100年を経ている施設です。一度破壊されてしまうと、その損失は物理的にだけでなく、文化的にも取り返しのつかない多大なものとなってしまいます。
見学させていただく我々市民も、この価値を十分理解し、最大限の注意を払わなければなりません。改めて肝に銘じました。

「たまこまーけっと」舞台探訪の一環という、動機としてはちょっと不勉強な目的で訪問しましたが、案内していただいた職員さんは「舞台探訪」というジャンルに理解を示してくださっていました。
「『けいおん!』というアニメもこの辺なんですよね?」と言われたときにはびっくりしましたwそこまでご存知とは。
(写真は見学者への宣伝用に刷ったというプリント)
「たまこまーけっと」を観て来たという組は私たちで4組目だったらしいです。
「またうかがっても良いですか?」と尋ねると、ありがたいことに「ぜひどうぞ、その都度アレ(許可願)書いてもらいますけど(笑)」と言っていただきました。
もしこの記事を読んで、見学に行ってみたいと思っていただいた方がいれば、くれぐれもマナーを守っての訪問をよろしくお願いします。
あと、陸軍時代についてある程度予習をして行ったほうが絶対に面白いです。私もかじる程度の調べ物をしてから行きましたが、実際に見ると興味深い発見がいくつもありました。
聖母女学院さん、お忙しい中、見学させていただき本当にありがとうございました。重ねてお礼申し上げます。
(⑥へつづく)
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takanorix
2013.04.14 Sun. 23:20
爆睡してた?